
九州電力による太陽光発電の出力制御(抑制)1年目の実績【まとめ】
2018年10月13日(土)。九州電力は九州本土で初めて太陽光など再生可能エネルギーの出力を抑制する「再エネ出力制御」を実施しました。
開始当初はどのように抑制されるのか不透明な部分もあり、様々な憶測が飛び交う中「太陽光発電は終わった」といったような声も聞かれました。
あれから1年が経ち──。実際に春夏秋冬の1シーズンを通して経験してみて、結果的に抑制とはどういったもので、投資収益にどのような影響を与えたのか振り返ってみようと思います。
出力抑制のおさらい
出力制御は、太陽光などの再エネによる出力が増えたことで、供給電力量がエリア内の需要電力量を上回るのを防ぐために導入された制度です。
電気は貯めておくことができず消費と供給が同時に行われるため、電力の需給バランスを取るために需要量に対して同時同量の電力を発電して供給する必要があります。このバランスが崩れると大規模停電を引き起こす可能性もあります。
そこで、九州電力のような商用電力網を運用する電力会社は、需要に対して供給する電力がリアルタイムで一致するように、エリア内にある発電所の出力を調整して需要と供給がバランスするようにしています。
FIT制度がはじまって以来、気象条件に恵まれた九州地方では再エネの連系量が他の地域と比べて急激に増加したことにより系統への接続容量をオーバーしたことから、全国に先駆けて出力抑制が開始されることになりました。
出力制御は、供給量が需要量を上回る時間帯に、火力発電所などの出力を抑制してもなお供給オーバーとなる場合に、優先給電ルールに基づいて実施されます。
九州電力による再エネ出力制御、初年度の実績
さて、九州電力による再エネ出力制御の実績ですが、昨年10月13日から今年の10月12日までの1年の間に合計56回実施されました。このうち、気温の上昇とともにエアコンなどの夏季需要が高まることから、5月12日を最後に夏場の抑制は実施されませんでした。
2018年 | 2019年 | |||||||
月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
回数 | 4回 | 4回 | 0回 | 1回 | 1回 | 16回 | 20回 | 10回 |
表1の月ごとの実施回数を見てみると、電力需要の少ない春と秋に集中することがわかります。反対に電力需要が多い夏と冬にはほとんど実施されることがなく、これは再エネ出力制御の実施前に予想されていた実施予測と一致しています。
ひとつの太陽光発電所あたりの実績
前述のように、九州本土エリアにおける出力抑制はこの1年(365日)間に延べ56日実施されました。この発生頻度は率にしておよそ15.3%となり、年間平均で6.5日に1日の割合で抑制指示が出されるという結果になります。
これだけ頻繁に実施されると発電事業者としては不安になりますが、これはエリア全体で見たときの延べ回数になります。
実際には出力制御の旧ルールと指定ルール事業者で多少違いはありますが、指定ルール(特高を除く)の場合だと、エリア全体が8つのグループに分けられ、その日必要となる下げ調整量に応じてグループ単位の持ち回りで抑制がかかります。
つまり、自分の発電所が所属するグループが抑制対象になったときにだけ抑制がかかるということになるので、実際の抑制回数はもっと少なくなります。
実際、弊社で運用管理しているいくつかの太陽光低圧サイト※(指定ルール)で集計した結果、1サイトあたりの抑制回数は14回でした。エリア全体に出された抑制指示が56回なので4回に1度の割合で対象となっていたことになります。
※いずれもオンライン制御による更新スケジュールに対応。
また、オンライン制御による更新スケジュールでは、下げ調整量に応じて30分単位でスケジュールされますが、1回あたりの抑制は正午前後の2〜6時間の幅でほぼ100%の出力停止がかけられていて、1回あたりの平均抑制時間は3.9時間という結果でした。
この平均抑制時間が年に14回実施されたので年間抑制時間は
3.9[時間] × 14[回] = 54.6[時間]
となりました。
平均抑制時間について──。発電所ごとの期中抑制時間の合計には最大で6.5時間の差がありました。この点については出力制御の公平性の確保の観点から、今秋以降の抑制によって平準化されていくものと思われます。
抑制による発電収益への影響
ここまで、昨シーズンの実績から出力抑制により年間で54.6時間の抑制がかかったことがわかりました。
ここで、太陽光の出力制御は日中に実施されるので、弊社が所在する宮崎地方の日照時間の平年値である2116.1時間をベースにして抑制時間率を算出すると、
56.4[時間] ÷ 2116.1[時間] × 100 ≒ 2.58%
になります。
これがそのまま売電損失率となるので、例えば低圧FIT案件で年間売電収益が200万円とした場合の年間の収益損失を算定すると
200[万円] × 2.58[%] = 5.16[万円]
また、この案件の販売価格が2000万円だったとすると、利回りは10%から9.742%に下がることになります。
年間で約5万円、月にして4000円程度の損失が発生することになります。
消費税率アップで収益増を期待してた分がなくなるくらいの損失でしょうか。。
まとめ
低圧太陽光における再エネ出力制御の影響についてまとめました。
決して小さい額ではありませんが、月平均4000円程度であれば思ったほど大きなリスクではないという感想を持たれた方も多いのではないでしょうか?
出力抑制は、太陽光発電のように出力が天候に左右される変動再エネのさらなる導入拡大のために制度化された仕組みです。系統安定化のためにはある程度は必要な制度です。
九州電力では抑制の制御見込み量の算定手法見直しにより、今秋から実施される制御量が低減される見込みです。また、火力発電の下げ幅増加やエリア外送電の増量化に向けた対策を行っており、系統への受け入れ拡大に向けて様々な取り組みを進めています。
再エネの主力電源化を目指す日本のエネルギーミックス実現に向け、よりよいバランスが実現することが求められます。